『世界のエリートが今一番入りたい大学ミネルバ』 書評
世間では、某国の教育を司る最高権力者が、「『教育勅語』
某国の教育が世界と比べて10年どころか100年遅れていることを大臣自ら世界に宣伝してくれた出来事だったが、世界の最先端教育ではとある大学が話題になっているのをご存知だろうか?
その名前はミネルバ大学。「ミネルバ」とはローマ神話にて知恵を司る女神として有名だ。そんな無名の大学、まだ卒業生も出していない大学にハーバード大やスタンダード大などの超一流大学を蹴ってでも参加するエリートが殺到しているという。その秘密を問いてくれるのが本書である。
高校生以下のお子さんを持っている両親はもちろんのこと、教育に少しでも携わる方ならば必ず知っておくべきモデルが本書にはある。
ミネルバ大学の創設者ベン・ネルソンは、ペンシルバニア大学ウォートンスクールの学生で、既存の大学のカリキュラムを見直し、教授に改善提案をする学生団体に入って誇らしい成果をあげていた。しかし、この早すぎた成功に彼は満足しなかった。改善できたのは氷山の一角に過ぎない。大学教育そのものを変える提案をしたがそれは許されなかったのだ。いくらキャンパス内で一番有力な学生であろうが、彼はあくまでもイチ学生に過ぎなかったのだ。
会社員になり、バイアウトも経験、CEOにまで上り詰め、社会の成功者になった彼だが、ふと気がつくと10年以上月日が流れたいた。立ち止まって考えるには十分な金銭的余裕があり、学生の頃になし得なかった挑戦を再度行おうと決めた。
ここからリスタートを切った彼のアイデアへは拒絶から始まった。
世界一の大学を創ります。これをゼロから立ち上げるつもりです。
起業家の前でこう語った彼へは、皆が口々にできないと言う。中にはかのピーターティールにも否定されたが、飛躍するためのヒントをくれたのは彼だけだ。
学部教育で最高のブランドをつくるには最高の学生を手に入れる必要がある。しかし、最高の学生を手に入れるには最高の大学であるというブランドを持っている必要がある。
この言葉をヒントに、
・ハーバード元学長のラリーの協力
・ベンチマークキャピタルから30億の資金調達
・シリコンバレーで最も尊敬されるエンジニアであるジョナサン・カッツマンの参加
など野心的な取り込みを行い、メディアの注目を集めることができた。
目標は「21世紀最初の真のエリート大学」になること。そしてミネルバ大学を多くの教育機関が真似て教育を変えること。
こうしてミネルバ大学はたった4年で順調に動き出したのである。
では、そんなミネルバ大学にはどんな魅力があるのだろうか。わかりやすく理解するためにはまずはじめに大学が抱える4つの問題を知らなくてはならない。
1)大学と実業界が学生に求める技能に対する大きな乖離
2)学習効果が低い講義形式での授業
3)国際化への対応の遅れ
4)とどまることのない学費の高騰
上記4点の課題をすべて解決するための、
カリキュラム、仕組みをミネルバ大学は持っている。
1)大学と実業界が学生に求める技能に対する大きな乖離
→知識を得ること以上に大事なことは、知識を実行に移し、問題を創造的に解決できる力である。そんな能力を身につけるため、思考力と対人コミュニケーション力を徹底的に学習させる。そしてそこで得た力を実践できるように社外にて企業活動やボランティアに従事する。
2)学習効果が低い講義形式での授業
→すべての授業をオンラインで行っており、最低でも授業中の75%はグループワークや能動的な作業を行わせている。科学的にも少人数でのセミナー形式での授業が一番効率が良いことがわかっている。
3)国際化への対応の遅れ
→意外に思うかもしれないが、世界のトップ大学の留学生比率はわずか10分の1に過ぎない。※ちなみに東京大学の留学生比率はわずか1.4%・・・
そんな中、ミネルバ大学では、7か国の滞在都市にある寮を移動しながら勉強していくスタイルをとっている。短期間の旅行では学べないことが実際に住んでみるとわかることがたくさんあるのだ。
ちなみに選定都市は変更もあるが、
・ソウル、台北、ハイデラバード、ベルリン、ロンドン、サンフランシスコ、ブエノスアイレスである。
4)とどまることのない学費の高騰
→年間150万程度の学費がかかるとのこと。これはトップ大学の4分の1程度の学費である。オンラインなのに高くないか?とのツッコミはあるだろうが、校舎など無駄なところではなく学習効果が出るようにお金を使っているとのこと。
この本の著者は元ミネルバ大学日本連絡事務局の代表の方で読んでいて教育への思いが本からも伝わってくる方だ。
特に、選定都市にライバルである韓国、台湾の都市が入っているのに、日本の都市が入っていないことは著者だけでなく読者である私も非常に残念に思う。
まだまだガラパゴスなままの日本の将来を改めて憂うとともに、新たな時代の変化を感じられる有意義な本だったと思う。
世界の潮流であるグローバル化は、
ヒト・モノ・カネの移動を自由にした。
モノ・カネは既に自由に移動できるが、ヒトに関してもようやく本格的に動き出してきた。都内では外国人を見かけない日はありえない。当たり前の日常が少しずつ変わっている中、我々にできるのは「適応」しかない。