【書評】『自省録』マルクス・アウレリウス・アントニウス著
政治家や経営者など著名な人は回顧録を書くことがよくある。
公式な記録に近い回顧録を書くことはよくあっても、
私的な手記を一般に公開する人は現代であっても少ない。
本書は、人類史上最も幸せな時代と評されたパクス・ロマーナが終わりを迎えつつある中、なんとか立て直そうとしたローマ皇帝の書き残した手記である。
皇帝の名前はマルクス・アウレリウス・アントニヌス。
かの哲学者プラトンは「国家」にてこう記した。
「哲学者を王とする国政が一番」だと。
プラトンの理想を唯一実現したのが、
哲学者でもあるマルクス・アウレリウス・アントニヌス。
彼自身は学業優秀で読書好きな青年だったが、時代は彼を次期皇帝へと導く。
書物は捨てて、皇帝として現実と向き合わなければならない。
そんな自身が抱える葛藤や悩みを文に吐露したものが自省録である。
この本は、日々の生活で葛藤や壁にぶつかりながらも、
逃げることなく立ち向かわなければならないすべての人を勇気づけてくれる。
皇帝就任後、自身の子供を3人も失うだけでなく、天災や敵国の侵攻など次々と難題が降ってくる。共同統治者の義弟ルキウスとともに、前々帝のハドリアヌスの時に最大となった領地を統治するため全力を尽くしていく。
しかし、このルキウスがどうにも残念な人で、
東方の責任者を任していたがライバル国のパルティア(ペルシャ)にボロ負け。
マルクスが援軍を派兵してなんとか勝利へと導いた。
ハドリアヌス帝以来の凱旋パレードに市民は沸き立つが、
東方からの帰還兵が持ち込んだ、
「アントニヌスの疫病」と呼ばれる天然痘の感染爆発を引き起こしてしまった。
また、東方が落ち着いたとともに、今度は、北方のゲルマン人が暴れだす始末。
これにルキウスとともに北方にいくも、硬直状態が続き、陣営生活を強いられることに。
田舎(ローマから見たら)の生活に耐えられなくなったルキウスは、
勝手にローマ(都市)へ帰還するも途中で病死。。。
最後まで残念な義弟だが、ショックなのはマルクス本人。ここまで育てたのに。。。
最後の最後までトラブル続きで休む暇のないマルクスは、
せめて自分の心の内だけは平穏でいられるように心がけていた。
しかし、ある日彼は鏡で自身の姿を見て気づくのである。
「気づけばもうこれほど歳をとってしまった」と。
「長い自然の流れに対して人の一生というものは一瞬に過ぎない」
「だから今目の前の現実に誠実に取り組むこと」の大事さを言っている。
誰もがハッと気付かされる言葉だろう。
気づいた頃には遅い。過去も未来もなくて、あるのは今だけなのだ。
ストア哲学者として心の平穏を求めるも時代がそれを彼に許さなかったところに、
読者は悲しさを感じることでしょう。
それでも彼は、青年期に学んだストア哲学の理想である、
何ものにもとらわれない生き方を皇帝という立場でありながら、
実現しようと懸命に生きたのである。
現代社会もコミュニケーションツールが発達して、24時間誰かと繋がりっぱなしの時代となったが、マルクスに比べるとまだまだ余暇があるのではないか。
当時の最高権力者がいくら望んでも得られなかった幸せを、
現代は誰もが得ることができる。
そう思うと明日も頑張れる気がする。
- 作者: マルクスアウレーリウス,神谷美恵子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2007/02/16
- メディア: 文庫
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